<メキシコの時差>

1997年に旅行した時、メキシコ国内は3つの時間帯に分かれていた。
メキシコシティ−カンクン間に時差などなかったはずなのに…。
1998年にカンクンへ降り立つと、不思議なことに時差がある!?
その時の話を同人誌から抜粋しました。
誌面では縦書きだったので横書きだとちょっと見にくい部分もあるかもしれませんが、ご了承下さい。

★飛行機の話六(1998)
           <前略>

 一○時に搭乗が始まり、アエロカリベは予定の時間より一○分早く一○時二○分には既に滑走路を走っていた。
 カンクンまでは約三○分。しかし、到着してみると空港内の時計は既に一二時を差している。
「ん? そんなに長い時間乗ってたかな?」
「どしたの?」
 立ち止まって壁に掛かっている時計を見ていた蘭に、美代子が気付いて声を掛けた。  そして、その後ろから続いて飛行機を出て来た父親が蘭に向かって言った。
「あ、時差が一時間あるから時計進めるの忘れないでな」
「は?」
 信じられない言葉を聞いた、という様に蘭は父親を振り返る。
「だから、時差が一時間あるから」
「嘘だー。去年来た時はそんなんなかったよ」
「嘘だと言われても、あるもんはあるんだから。自分の時計見てみなさいよ」
 言われて自分の腕時計を見ると、時刻は一一時。
「本当だー。でもなんで? 絶対去年は時差なんてなかった!」
「夏時間とか?」
 きっぱりと、去年は時計を直した覚えはない、と断言する蘭に美代子が可能性としてサマータイムではないかと聞いてみる。
「いーや、そんなことはない。去年来たの七月だもん。夏時間なら去年だって当然その期間だったよ」
「それもそうか」
 納得はいかないが、実際に現地の時計は一時間進んでいる。
「おっかしいなー。時差があるなんて話、聞いたことないんだけどな。去年だってなかったのに、なんで今年はこうなんだ?」
 おかしい、と頭を捻りながらもそうなっているものはしかたない、と腕時計を一時間進める蘭であった。この物事に頓着しない、あるものはあるがままに受け入れるのは長所なのか短所なのか。何でもバカ正直に信じて騙されることに気を付ければ、海外を旅行するにはいい性格であるかもしれない。

★遺跡は登る為にある?
           <前略>

「さっそくですが、本日の予定をざっと確認させて頂きますね。まずはこれから途中でトイレ休憩を一回いれて、高速を使って約三時間かけてチチェンイツァーへ向かいます。カンクンがあるのはキンタナ・ロー州ですが、チチェンイツァーのあるのはユカタン州となります。キンタナ・ロー州は周りの州とは一時間の時差がありますので……」
「えーっ! やっぱりそうなんですね」
 カンクンに到着した空港で時差があることに驚き一度は納得したかの様に見えた蘭であったが、ここで再度ガイドから時差の話を聞き、やっぱりあるんだよなーとつぶやいた。
「どうかしましたか?」
「去年カンクンに来た時はメキシコシティと同じ時間だった筈なのに、今年になったらいきなり時差が出来てるんですもん」
「ああ、今年からなんですよ」
 竹内はあっさりとそう言った。
「え?! そうなんですか?」
「ええ、去年までは確かに時差はなかったんです」
「なーんだ、よかった。時差なんてなかったってあたしの主張は間違いじゃなかったでしょ。ね、みーちゃん」
 よかったよかった、と竹内から明快な回答が得られた蘭はホッとする。
「うん。でもじゃあなんで今年から時差なんて作ったんだろう」
「どうやらニューヨークと同じ時間帯にしたかったみたいですね」
 これまた竹内があっさりと言ってくれた。
「ニューヨークと同じって……」
「あちらからの観光客は多いですからね、それでじゃないでしょうか」
「そんなことぐらいでーー!」
 時差の謎が解けたはいいが、そんなに簡単に時差って変えられるものなのか、と今度は新たな謎が湧く。

           <後略>

last up date/1999.11.15