★立体パズル
 ホテルに入って荷をほどき、両親から頼まれた物を一つに纏めて袋に詰める。スーツケースを開けてぎゅうぎゅうに詰められた物達を引っ張り出す。
 ふりかけに折り紙、ピアス等の小物もざくざく。更に出発日の朝、すべての荷造りが終わったところで祖母から託された荷物もなんとか押し込んで、自分のもの以外で膨らんだスーツケースを解放する。
 それらを引っ張り出してはベッドの上に放り出していく様子を見て、銀子と七生子が目を丸くしている。
「それ、全部頼まれ物?」
 自身も蘭から頼まれていたカセットテープを取り出して七生子が言う。
「うん。あ、ありがと七生ちゃん。そのテープもこっちに頂戴、一緒に纏めちゃうわ。あっと、ぎん。ポッキーと一緒にこの袋に入れてもらえるかな」
 そう言って、蘭は小さく折りたたんでスーツケースに入れてきた紙の手提げ袋を銀子に渡す。
「わかった。――でも小田ちゃん、これだけのものがよくその中に入ってたね」
 受け取った紙袋を広げて銀子が言うのももっともである。ベッドの上には、機内持ちこみできるサイズの布張りの小型スーツケースから出てきたとはとても思えない程の荷物が広げられている。
「あー、すっきりした。これでやっと自分の荷物だけになったわ」
「小田ちゃんの荷物、本当にこれだけなの? スーツケースの中スカスカじゃん。よくこれだけにまとまったねー、何か荷物少なくする秘訣でもあるの?」
 銀子が詰めている頼まれ物と、半分以上隙間の開いている蘭のスーツケースを見比べて、感心したように七生子が呟く。
「別に秘訣なんかないけど…。ちゃんと必要な物は入ってるしなー。着替えだって二〜三枚は入ってるし、パジャマだってあるし、下着や靴下は洗濯するから数は少ないけど、洗剤に洗濯バサミに洗濯物乾すロープでしょ、洗濯バサミのついた小さなハンガーもあるし、水着にサンダルに洗面用品に…」
「───もういい、分かった。要するに荷造りが上手いのだね」
 荷物の中身を確認しながら一つ一つ言い上げていく蘭を途中で遮り結論付ける。
「うーん。慣れ……かなぁ。ウチこないだ引越ししたからさ、そん時の荷造りで荷物詰めるの慣れたのかも。これって、ほとんど立体パズルだよね」
 スカスカになったスーツケースに自分の荷物を放り込んで鍵をかけたところで、銀子の方も頼まれ物を紙袋に詰め終わったようだった。
「でも、持ち物少なくしすぎて忘れ物ってない? はい。詰め終わったわよ、袋」
「サンキュー。あるよ、忘れ物。いつだかハミガキセット忘れたことあったし。けど大体の物って、旅行先でも買えるじゃん。なんとかなるって」
「それはそうだけど……。やっぱりそれくらい思い切りよくしないと荷物は減らないのかしら」
「そう! 掃除と荷造りは思い切りが大事。で、二人とも準備はオッケー? もう部屋出てもいい?」
 メキシコシティでの部屋割りは、銀子と七生子が同室で蘭が一人。各自部屋にチェックインしてから一旦蘭の部屋に集まって、蘭の両親へ手渡す物の整理をしていたのだ。
 メキシコ到着の今日はホテル内のレストランで軽く夕食を取りながら、これからの旅行日程の確認と移動や宿泊に必要なクーポンを受け取ることになっている。


last up date/2006.04.01