★飛行機の話3(1997) |
「メヒカーナのカウンターは……っと、あったあった」 ビジャエルモッサからカンクンへは飛行機で約一時間という話だった。 カウンターで搭乗の手続きを済ませて渡されたチケットは今までに見たこともないようなポップなデザイン。白地に青で太陽がデザインされていて、手書きで「12」と書かれているのは座席番号だろうか。AとかBとか、窓側か通路側かの記載がないのを不思議に思いながらもチケットを受け取る。 出発は一六時一五分。あまり時間もなかったのでそのまま待合室へと向かった。待合室には既に数名の乗客が待っている。蘭と七生子は窓辺で飛行場を眺め、少々疲れの色の濃い銀子は椅子に座って待っている。 「あたしたちの乗るのって、どれだろうね」 窓から眺めると数機の飛行機が止まっているのが見える。 「メヒカーナだから、機体からいってあれかなー」 メヒカーナの機体は白地で、尾翼に緑色でマークが入っている。それを指して七生子が言った。 その時、ちょうど着陸してくる飛行機があった。機体は今まで見たメヒカーナでもアエロメヒコのどちらでもなかったが、大きさから言ってもメキシコ国内線であることは間違いなく、中からぞろぞろと人が出てきては外で待期していたバスに乗込んでいく。荷物室から荷物が出される様子を眺めながら、蘭と七生子は明日からのカンクンでの予定をあれこれ計画していた。 「カンクンって言ったらやっぱり海だよねー」 「うんうん、なんたってカリブ海だもん。楽しみー」 「三泊するんでしょ、そしたら一日はとりあえずホテルのビーチとプールでのんびりして、シュノーケルもやりたいし、治安も悪くないっていうから街歩きもしてみたいな」 「チチェンイツァーとか、他にも近くの遺跡に行くツアーもあるみたいだよ、海岸沿いの遺跡とかもあるって」 持参のガイドブックを広げながら蘭が言う。 「うーん、やりたいことは盛沢山。でも全部は出来ないもんね、あとで皆で相談だ。でも、ぎん大丈夫かな?」 七生子と蘭がそちらを見ながら、一人で椅子に座っている銀子の様子を心配する。 「ちょっと心配だよね、そんなにハードなことはしてない筈なんだけど……。明日一日をホテルでのんびり休養日にすれば、大分回復するんじゃないかな。その後の予定をどうするかは、明日の様子を見て相談しよ。……あ、そろそろ搭乗みたい」 蘭達の乗る便の搭乗案内が始まり、三人は他の乗客と共に待合室の出口でチケットに書かれた番号順に並んだ。 待合室は二階にあり、出口で係員にチケットを見せて階段を下りると飛行機まではそのまま歩いていく。 「どの飛行機だろうね」 「前の人についていけば分るんじゃない?」 「あ、あれ? あの人あっちの飛行機に行っちゃうよ? あれってさっき飛んできたやつじゃない」 「うわー、本当だ」 前を行く人々が向かうのは、先程着陸して乗客が降りてきた飛行機だった。機体には青い文字でアエロカリベと書かれている。 「なに? どうしたの?」 「あ、ぎんは見てなかったんだっけ。あの飛行機、さっき着陸してきたんだよ。で、人も降りてきて荷物も出してたのになんで? そんなにすぐ乗っていいもんなのかな」 「でも、バンクーバーのトランジットだって同じ飛行機で機内清掃と乗務員交代やって一時間くらいだったじゃない?」 「それもそっか」 果たして、乗込んでみると座席の半分程は既に人が座っていて、やはりここはトランジットだったのだと分る。 チケットに書かれた番号を探し、通路を進む。 「12、12、っと。あれ? ちょっと、あたしの番号に人が座ってるよ」 見るからにネイティブな家族連れが12列の席に座っているのだ。蘭が慌てて七生子と銀子の方を振り返る。『ここはあたしの席だ』なんて、スペイン語で言える訳がない。 「あ、私もだ。ぎんのは?」 「わたしの所は空いてるけど、どうしようね」 三人が通路で固まってしまったのを見て、気付いたスチュワーデスがなにやら英語で話しかけてくれた。どうやら座席はフリーだからどこでも座っていいのだと言っているようだ。 「ねぇ、なんかどこでも座っていいみたいなこと言ってない?」 「うん、ってことはこの番号って単なる搭乗の順番だったわけね」 「そうみたい。とりあえず、空いてるところに座ろうか」 三席固まって空いている場所はなく、近くの席に離れて座ることになった。 ビジャエルモッサからカンクンまでは約一時間。しかし、飛行機は三○分もしないうちに下降し始め着陸態勢に入る。 蘭の斜め前に座った銀子も後ろを振向いて不思議そうな顔をしている。 「カンクンまで一時間って言ってたよね?」 「うん、確かにそうガイドにも書いてあるけど……」 スペイン語で入る機内放送を注意深く聞いていると、メリダという単語が耳に入ってきた。 「ねぇ、今メリダって聞こえなかった?」 「メリダ? メリダって地名あったわよね、カンクンの手前あたりに」 「…ってことはメリダでも降りるんだ」 着陸後、乗客の数名が降りていったが大半はそのまま座席に座っていた。 通路を挟んで蘭の斜め後ろに座っていた七生子は、蘭と銀子の会話が聞えずにここで降りようとしていた。それを二人で慌てて止め、丁度銀子が座っていた列が空いたので席を移動して三人で並んで座る。 メリダで三○分程止まり、新たな乗客を乗せて飛行機は再び離陸した。次に止まる場所こそカンクンの筈である。 メリダを飛び立って約三○分、カンクンに着陸するとのアナウンスの後、飛行機は無事にカンクンの空港に着陸した。しかしどうやらここもトランジットらしく、座り続けている乗客が何名もいる。 「なんだかここもでも降りない人がいるね、いったいこの飛行機ってどこが最終地点なんだろう」 数人の乗客が座っている間を進みながら七生子が言った。 「どこからきてどこへ行くのか、旅行者のあたし達には知る由もなかった……。ってやつですか?」 「小田ちゃんってば、勝手にモノローグしないでよ。でも座席は自由だし三○分飛んでは降りるし、なんか乗合バスみたいだよこの飛行機」 |