元の原稿が縦書きなので、漢数字等見難い部分がありますがご了承ください。
★街歩き〜カンクン編〜 |
エルレイの遺跡でイグアナと遊んだ後、階段を上って車道に出るとポツポツとまた雨が降ってきた。セントロへ向かうバス停へ着くと有難いことにバスはすぐにやってきて、たいして雨に濡れることもなく乗り込んだ。 「ふー。良かったね、降りだす前にバス乗れて」 「うん。そんなに降ってはいないけど、タイミング良かったよね」 エルレイの遺跡はホテルゾーンの外れにある。乗り込んだ時には少なかった乗客も暫く進む内にどんどん増えて、蘭達の宿泊ホテルの近くまで来る頃には立っている人も多くなった。 「ね、みーちゃん。このままセントロまで乗ってかない? どうせ一律4ペソの料金なんだから、このまま行っても構わないよね」 ほんの数分で雨も止み、開け放したバスの窓から入る湿った風に吹かれながら外を眺めていた蘭が、隣に座る美代子に言った。 「うん。また街歩いてスーパーに入ろうよ。水もなくなってたし、向こうでお昼食べてもいいよね」 地元のスーパー好きの二人である、ホテルゾーンのショッピングモールは高かったが、セントロへ行けばいくらかは安くなるだろう。 エルレイからバスに乗ること約三○分。セントロに入ったあたりで止まった時にゾロゾロと人が降りていくのを見て、二人もここで一緒に降りてみる。 さて、ここはどこだろう。ガイドブックの地図を開いて見ると、セントロ一の大通り【トゥルム通り】の南、民芸品市場の脇であった。 「うっ、あつーい!」 先程までは雨が降っていて、地面には水溜まりも多く残っているというのに、強烈な日差しと照り返しで目が痛い程である。 「こりゃ、サングラスが外せないわ。持って出てきて良かったよ」 二人は慌ててバッグから取り出したサングラスをかける。民芸品売り場の客引きの声をやり過ごして、そのままトゥルム通りを北へ向かって歩いていく。もとよりカンクンでお土産品を買うつもりなどない。 「あ、スーパーマーケット。入っていい?」 「もちろん。さっき降りた向かいにもスーパーあったよね、家族連れマークの」 「うん。メリダで入ったのと同じだね、もちろんあっちも入るのさ」 トゥルム通りの北、モニュメントがあるロータリーまで行くとバスターミナルがある。ホテルゾーンとセントロを繋ぐバスもここから出ているのだろうか。メキシコ各地への長距離バスの発着場所なのかもしれない。 ぐるりと辺りを見回すと、右手方向には両脇に木が並び木陰が涼しそうな道が続いていた 「ねぇ、あっち行ってもいい?」 「言うと思ったよ、小田ちゃん。オッケー、どんどん行こう。こういうのは私も大好き」 バスターミナルの脇を通り、トゥルム通りより一本奥に入った通りを歩いて行く。時々脇の道へ入っては住宅街を進んで行くと、学校らしき建物があった。 「ここ小学校かな?」 「今日は平日だし、今の時間だったら授業中だよね。何か行進の練習でもしてるみたい」 柵越しに中を見ている外国人を行進の最中にちらちらと盗み見している子供もいる。二人は学校を離れ、また当てずっぽうに通りを曲がって進んで行く。今度は公園の様な広場に出た。平日の昼間ということもあってそれほど賑わっている訳でもないが、果物やその場でジュースを作ってくれる屋台がある。 「あー! 果物屋台だ。おいしそう。お腹壊すかな、でも食べてみたいな。生ジュースもおいしそう」 「そんなに神経質になることもないんじゃない。飲む?」 「うーん、うーん。でも量多そうだから、一杯買っても飲み切らないだろうな」 「なら一杯買って半分こして飲もう。私も全部はいらないけど、ちょっとなら飲んでみたい」 「よし。じゃあ飲む! エクスキューズミー。エストポルファボール(これください)、クアントクエスタ(いくらですか)? あ、一つね」 英語とスペイン語と日本語のちゃんぽんで屋台のおじさんに話し掛けた蘭に、彼はにこにこしながらスペイン語で何かを言って屋台の柱に取り付けてある値段を指差してくれた。フレッシュジュースは6ペソである。 「グラシアス(ありがとう)」 『自遊自在スペイン語』を見ながらしゃべることは出来ても、相手が話す意味が分からなくては会話が成立するはずもない。ジュースを受け取ってお礼を言うと、蘭と美代子は歩きながらジュースを飲む。搾りたてのフレッシュジュースは多少ぬるくても満足できる美味しさだった。 住宅街や公園をいくつか通り過ぎ、病院の前を通って最初にバスを降りた付近まで戻ってくる。 近くには大人と子供の歩く姿がトレードマークになったスーパーがある。入ってミネラルウォーターと昼食用のパンを買うと、トゥルム通りとコバ通りがぶつかるロータリーでバスを拾ってホテルへと戻る。 年期の入った少し薄汚れたバスだったが、ちゃんと走ってくれれば文句はないのである。 「あー、今日はイグアナもたくさん見れたし、街歩きも思う存分したし、満足満足」 「もう三時か、お腹すいたね。ホテルに帰ってさっきのパンでお昼ご飯にしたら、ビーチサイドで昼寝といこうか」 「いい考え。結構リゾートしてるじゃん、あたしらって」 |