元の原稿が縦書きなので、漢数字等見難い部分がありますがご了承ください。
★飛行機の話7(1998) |
「蘭、蘭!」 どこからか自分を呼ぶ声がする、と思って蘭はぐるりと周りを見回した。 場所はカンクンからメキシコシティへ向かう飛行機の待合室。メリダからカンクンへ飛んだ時と同様に、蘭の両親はチェックイン後に朝食を取るべく空港内のレストランに入り、蘭と美代子は空港探索に出掛けていた。早々に探索を終えて搭乗開始の時間を待合室で椅子に座りながら待っていた時に、先程の蘭を呼ぶ声が掛かったのである。 見れば待合室に入る為に通らなければならない金属探知ゲートの脇から、蘭の父親がこちらに向かって手招きをしている。 「何やってんの。早く入ってくれば?」 近付いて行って、どうして入って来ないのかと聞いてみる。 「蘭、おまえ搭乗券は自分の分しか持ってないよな」 「うん、ちゃんと自分のは持ってるよ」 言って、ウェストバッグから搭乗券を引っ張り出す。美代子も自分の持っている搭乗券を確認するが、チェックイン後に全員分きちんと分けたのだ、やはり自分のものしか持っていない。 もしかして……、と思ってみれば案の定。 「っかしいな。お父さん達のがないんだよ」 「ないって、そんな……」 「食事したテーブルに置き忘れたかそこで取られたか、どっちにしろレストランに入るまではあったんだから、一度今まで通った道順を辿り直してみましょう」 「鞄の中はひっくり返してみた? 奥の方に入り込んでたりするんじゃないのー」 「いや、鞄の中は見たよ、ちゃんと。ちょっと戻ってくるから待っといて」 そう言うと二人は空港職員と連れ立ってレストランに入ってからの足取りを辿るべく戻っていったが、結局搭乗券は発見されなかった。 搭乗が開始され離陸まであと僅かとなったところで戻ってきた両親は、もう一度航空券を購入したという。 「それにしても、心配なのは預けた荷物だな」 「そんなん、盗られたんだったら払い戻して現金手にしてるに決まってるじゃん」 失くなったというチケットには、機内預けにした全員分のバゲッジシールが張り付けてあったのだ。もしチケットが誰かに盗られていた場合、最悪の事を考えればそのチケットで飛行機に乗った人が荷物を持ち去る可能性がある。そう父親は言うのだが、その場合既にそのチケットは払い戻されて現金を手に入れていると考えるのが妥当だろう。 発券された時に見た記憶に因ると、座席は二人ずつ少し離れた場所に位置していた。果たして全員で機内に乗り込んでみれば、蘭と美代子の座席の近くに二つの空席がある。おそらくそこが両親の席だっただろうとは思うが、どうすることもできずに乗り込んだ飛行機はそのままメキシコシティへと向かう。 メキシコシティの空港に到着後、全員の荷物は無事にターンテーブルから吐き出されてきた。無事にあって良かったと先に進もうとするが、荷物を取ったら空港職員にバゲッジシールと持っている荷物のタグの確認をしてもらわなくてはならない。バゲッジシールを貼ったチケットを失くした蘭達には確認するべきシールがないのだから、当然そこで止められてしまう。 実はシールを貼ったチケットをカンクンの空港で失くしたのだ、と訳を話せば難なく通過できたが、担当係員には笑われてしまう。 荷物も無事に出てきたし、料金を払って全員同じ便に乗ることができたのだから良しとするべきか、とタクシーで国立人類学博物館へと向かう。 父親は市内でやることがあるから、と母親と蘭と美代子の三人を国立人類学博物館で降ろすと全員の荷物をまず本日宿泊のホテルに預けて自分の仕事を済ませ、博物館で待ち合わせをする。 そして数時間後、待ち合わせた父親の報告に蘭はどっかんと爆発してしまった。 「はぁ?」 「いやー、搭乗券見つかったよ」 あんなに空港内を職員を連れ回って探したのに、あれほどバッグの奥に入り込んでいないかと確認したのに、父親のバッグの中から搭乗券は出てきたのだという。 「もー、だからバッグの中じゃないかって言ったのに! 何をやってんだか、ウチの親は。ったく!」 |