旅行歴はそれなりにあるけれど、旅先でスリに遭いそうになったのは初めてだった。 あれがスリだったのではないかと気づいたのもその2人組が去った後だという間抜けっぷりだったけれど、幸い何も取られなかったのは旅行中の対策が万全だったからだと思っておこう。 現場はアルハンブラ宮殿のチケット売り場近くにあるアルハンブラバスの停留所で、バスを待っている時だった。 アルハンブラバスとは、グラナダの中心部を走っている赤い車体のミニバスで、車体に白抜きで「Alhambra BUS」と書かれている。 日中でバス待ちの人がそれなりに多く、バスを2〜3台見送った後だ。 他にも先ほどのバスに乗りきれなかった観光客達が一様に道路の方向を向いてバスを待っていた。 折しも季節は紅葉の時期。 赤や黄色に色づいた樹々からは、はらはらと葉が落ちている。 バス停のすぐ側にも樹があり、私たちはちょうどその樹の下で立って待っていた。 ふと、小さな何かが背負っていたリュックに当たった感触がした。 隣にいた同行者に「ねぇ、なんかリュックに当たったっぽいんだけど木の実かなぁ」と話しかけた時だ。 同じく観光客だと思われる女性がこちらに向かって話しかけてきた。 『大変! 背中が汚れてるわよ』 スペイン語なので詳細は分からなかったけれど、おそらくこんな内容だったのだろう。 「うわ、鳥のフン? 緑色がいっぱいかかってる!」 同行者も気づいて慌てている。 「え〜〜〜〜っ?! 何か落ちてきたと思ったのは木の実じゃなくて鳥のフン?」 『あっちのトイレで水が使えるから落とした方がいいわよ』 と、件の女性が指をさす。 指さす先はテラス席のあるレストランの先だ。 うえ〜。確かにこのまま固まったら落とすの大変だし、自分じゃどんな状態で汚れているか分からないから水のある所に行った方がいいだろうなぁ。 そう思いながら連れられて行く途中、別な団体観光客が同じ方向に向かってやってきた。 歩きながら同行者がティッシュを出して拭いてくれたものを見ると、くすんだ緑色で臭いもある液体でティッシュ1枚では拭ききれないくらいかかっているようだ。 声を掛けてくれた女性もティッシュを出して、手持ちのミネラルウォーターのボトルでティッシュを濡らして拭いてくれている。 あ、そういやリュックの右ポケットにウェットティッシュが入っているからあれも使おう。 そう思い出してリュックを背負ったままでリュックのポケットから出して使おうとして体をよじった時に目にした同行者の背中にも緑色が! 「ちょっと、そっちの背中にも緑!」 「えええーっ!?」 すると最初に声をかけてきた女性の連れと思われる男性もやってきて世話を焼いてくれる。 『大丈夫かい?』 団体様で行き先は塞がれ、トイレに到着するのもそこそこに取り出したウェットティッシュと普通のポケットティッシュでお互いの背中を拭いていると、声をかけてきた2人組は『もう大丈夫そうね』という雰囲気で元来た方向へ去って行ったのだった。 しばらく2人で、「うわー、こんな所にも」「鳥のフンってこんなに大量に引っかかるかなー」「うぅ、リュックと上着が〜〜」などと言いながらあらかた拭き終わってバス停に戻ると先ほどの2人組は見当たらない。 そこでハタと気づいたのだ。 もしかして・・・、これってケチャップやアイスクリームなんかと同じタイプの汚され系スリ?! ・トイレ(人の少ない所)に誘導する。 ・やたら親切で、自分では見えない所(この場合背中)を拭いてくれる。 ・2人組(複数で近づいてくる)。 ・ティッシュと水のボトルを持っていて用意がいい。 ありえる! 慌てて今度は人のいる所でざざっと荷物の確認をする。 ・パンツのポケットに素のまま入れているお金…OK。長めのトップスや上着が蓋になって簡単に手が入らない。 ・上着のポケットに入っているコンデジとiPod touch…OK。ポケットのチャックを閉めていたから簡単に手が入らない。 ・パスポートや航空券…ホテルのセーフティボックスに預けてある。 ・リュックの背中側の薄いポケット…OK。パスポートや航空券を預けたから何も入ってない。 ・リュックの左ポケットに携帯電話…OK。2人でお互いを拭き合っていたのでお互いの目があった。 ・リュックの中のお財布(カード類とか)…OK。お財布にはチェーンを付けてリュックと繋いである。 ・一眼レフ…OK。バスに乗る前だったからリュックの中に閉まっていて汚れの被害もなし。 うん、オールオッケー。 スリを仕掛けようとして汚すことはできたけれど人の少ない所まで誘導できなかったし、意外とスキがなくて何も取ることができないと判断して去って行った。 そんな所だろう。 ホテルに戻って改めて荷物を確認してみたけれど取られたものは何もなくて一安心。 WiFiに繋いでiPodで検索してみたらグエル公園で被害にあった人の情報が出てきて、やっぱりこういうスリはあるみたいだ。 今回はその時気付かなかったとはいうものの、被害は汚されたリュックと上着だけだったというのは本当に幸いだった。 こちらも1人じゃなく複数だから少し安心していた部分もあったのかもしれない。 スペインやイタリアは意外と危ないという話をよく聞くので、気を引き締めていかなくては。 |
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