■ハッピーランド














ダマスカスにある遊園地がすごいらしい。

すごいと言っても中東一高い観覧車があるとか、アトラクションの数が多いとか、そういう訳ではない。
規模的には、ディ●ニー●ンドや富士●ハイ●ンドあたりを知っている日本人から見たらしょぼい。浅草花●しきが近いかも・・・?
こぢんまりとした遊園地なのだけれど、日本の遊園地へ行くのとは違った意味で楽しめる。
あの“ゆるさ”とシリアのシャバーブ(若者)を笑って許せる人であれば・・・。


ダマスカス在住のはいじさんとのメールでその話を知った時に、失礼ながら小田蘭が思ったことは、

シリアって遊園地あるんだ、ということだった。

シリアに遊園地があったって別におかしくない。どこの国にだって規模の大小はあっても遊園地くらいあるだろう。
海外では移動遊園地だって多い。
でも海外でそんな遊園地になんて行ったことはない。
本場のディ●ニー●ンドやユニ●ーサル・ス●ジオにだってあまり興味をそそられない小田蘭ではありますが、このシリアの遊園地にはなんだか惹かれた。
なんというか、移動遊園地のような。どこかシュールなイメージが湧き上がってきたのだ。

メールにはさっそく
「行ってみたい」と返信をして、その遊園地へ出かけたのはシリア到着日当日。
情報元である友人Sさんとはいじさんと一緒に、日本人女性3人でウワサの遊園地へ向かったのだった。
ダマスカスから空港行きのバスに乗って途中下車し、そこからは徒歩で向かう。
暑い地域ではこういう人が集まる施設が盛り上がるのはたいてい日が暮れてからだ。
ダマスカスの空港と市街地を行き来したことがある人ならわかると思うけれど、市街地に入るまでは結構荒涼とした土地が広がるダマスカスの郊外。
そこに、ぽつんと見えるさまざまな色のイルミネーション。というか、電色。
近づいていくとそれらしい看板が見えた。

HAPPY LAND

ちょっとボロボロな看板がこれから向かう遊園地を象徴しているようだと思うのは気のせいだろうか。 
チケット売り場で1人がチケットを買い、残る2人がブースの後ろで待っているとさっそく声がかかる。
声がかかるといってもナンパ目的ではなく、単に外国人が珍しいのだろう。
何しろ見る限りシリア人しかいない。
旧市街ではあんなにみかけた欧米系観光客も、ここでは一人として見当たらなかった。
当然アジア人など・・・。
そして、基本的に写真を撮られたい人達なのだ。
こちらがカメラを持っていると分かると、撮れ撮れと周りから集まってくる。
もしくは一緒に撮ってくれと自分のカメラを持ち出す。
それでいて、撮られた後はデジタルカメラの画面で自分の姿を確認すると満足するところが可愛いんだかなんなんだか。
フィルムカメラの時代は住所を教えるから送ってくれと言われる事が多かったけれど、デジタルの時代になった今は自分の姿を確認できればOKらしい。
どれだけ自分好きなんだ、とこの日も友人3人で話していた。

さて、件のハッピーランドだ。
外から見た感じは普通の小さな遊園地。
看板も一部錆びていて、いかにも地方都市の郊外にある遊園地かという所だ。
いや、ダマスカスは首都だけどさ。
夕暮れ時にアトラクションの電色が映えている。

しかしそれも一歩中に入ったとたんに蘭たち3人の認識は一転した。
確かに入場前から某ネズミの国の住人らしい、なんとか似せて描いたらしいイラストが壁を彩っていた。

だがしかし。

入場してすぐ左手にあったアトラクションの背景を見たとたんに声を上げたのは友人Sだ。
「マイケルーーーーーっ!」
「ええっ?!」

「あった、ホントだ。ねえ、隣はもしかしてマドンナ・・・?」

「うそーっ」


マイケル・ジャ●ソンとマド●ナとミッ●ー・●ウスがいる遊園地、ハッピーランド。

「ねぇ、ねぇ! あれきっとダ●ボ!」
「あっちはド●ルドじゃない?」

「あそこなんだろう、なんだかアラビアンっぽいよ?」

「! アラ●ンだよ、きっと」

「あれは? あんなのもディ●ニーにあった?」

「ええっと、そうだ! ポカ●ンタス!」

「そういえばそんなのもあったねー」


夢の国バンザイだ。
そして、夢の国はまだまだ続く。

男の子たちに写真を撮れとまとわりつかれ、若い女性たちのグループに一緒に写真を撮ってと頼まれ、園内を一回りしてショッピング・コーナーへ行くと、さらにすごいものに出会ってしまった。

ライセンスも何もあったものじゃないキャラクター物やブランド物は言うに及ばず、とある1店舗で大騒ぎしてしまったものは日本のアニメDVDだ。
「ちょっとこれキャプテン翼!」
「未来少年コナンーーーーっ!」

「えっ、これ何? ちょっとちょっと!」

「何々?」

「これ!」

「懐かし〜! スパンク!」

「えっ? おはようスパンク?」

「そうそう!」

「なんでそんなものがーっ」

はいじさんがダマスカスで日本語を教えている友人に数枚買い求め、友人Sさんもネタとして購入し、店員からはこんなものもあるんだ、と現在上映中の映画のDVDまで示された時には。。。。

ひとしきり盛り上がった3人はその勢いでアトラクションにも乗ってみることにした。
気になるのはやはり観覧車だろう。
なんといっても、下から見ていて時々動きが止まっているのだ。
見る度に止まっている。
かと思えば動いている時の回転が妙に早い感じがする。
それほど高さのある観覧車ではないのだけれど、ものすごく気になる。
果たしてその謎は並んでいるとすぐに解けた。

「ねぇ、この観覧車って、もしかして人乗せる時に止まってない?」
「えー? まさか!」
「でもなんだか・・・、あっ、止まったよ!」

3人共が並んでいる人たちの頭越しに観覧車の入口に注目する。
見ていると、止まった状態で一番下にあるブースを真ん中にして前後1つずつ、合計3つのブースから一度に人を降ろすと、一斉に次の3組を乗せていた。
そうして3ブース分動かしたらまた止めて次の3ブース分を入れ替えている。
そして、1周分全員乗り換え終わったら連続して2周分ぐるぐると回る。


ハッピーランド。
それはシリア人だけでなく、日本人まである意味ハッピーに楽しめる遊園地だった。
シリアのゆるさと、それを許容できる人ならば、の話だけれど。