SWANNY ファスビンダー二本立て公演『ゴミ、都市そして死』『猫の首に血』
2年前に日本初上演された『ゴミ、都市そして死』。
今回の再演はもう1つのファスビンダー舞台と共に2本立てだとか。
2本立てのもう1本『猫の首に血』の方は今回がやっぱり日本初上演。
『ゴミ、都市そして死』の初演は紀伊国屋ホールで、上演が近付いて気づいた時にはもう満席で行けなかった記憶がある。
今回はしっかりと予約をして観に行ってきた。
元ナチスのファシストで今は女装の酒場歌手で主人公の娼婦ローマBの父親という、字面だけ見ているとなんだかよく分からない役を伊藤ヨタロウさんが演じるのですよ。
このカオスな配役がもうヨタロウさんだなぁ...というかね(笑)。
世田谷パブリックシアターは3階席まである劇場で、以前何かを観に入ったことはあるけどそうしょっちゅう観に来る場所ではかったので久し振りでした。
紀伊国屋ホールより客席数も増えて劇場も大きくなっての再演。
しかも2本立て。
そして日本にはあまり馴染みのないようなドイツ演劇。
ファスビンダーは映画も撮っているようだけれどそれもあまり知られていないような。
といういろんな要因もあったのか、どうも前売りの伸びがよろしくなかったようで...。
残念だけどここ数年は本当にこういうお芝居関係の集客は二極化しているように感じます。
事実、今回私が観たのは『ゴミ、都市そして死』の千穐楽だったのだけれど、千穐楽だというのに客席の熱量が低かった。
役者さんたちの集客ツイートの甲斐もあってか客席はそれなりに埋まっていたようだったけれど。
カーテンコールも1回のみで、その後も少しは拍手が続いていたけど役者たちが2回目のカーテンコールに出てくることはなくそのまま終わってしまった。
確かに熱狂するような芝居内容ではないけれど、なんというか客席にいて客席側の温度が低かった。
そういうのは舞台上にも伝わるよね。
舞台美術は幻想的だったし照明も綺麗だった。
照明は昨年のコクーン歌舞伎『三人吉三』も担当していた人だ。
あの照明はすごくすごく綺麗だったので今回も楽しみにしていたし、実際すごく綺麗だった。
演出の千木良さんが、やはりコクーンで演っていた『もっと泣いてよフラッパー』の照明が綺麗だったからと指名したのだそうだ(twitter情報)。
舞台の両袖にある普通は黒い袖幕まで白いビニールのような質感の布に替えられていて、同じ質感の上から下がる布と舞台内にある左右の幕にはクリスマスツリーのような電飾が飾られていて、背景には大きな月のオブジェ。
その前にこぢんまりとした部屋のセット。
袖にハケる人達が通ると袖幕がカサカサと乾いた音を立てて、それが若干冷たい印象を受ける照明と相俟って寒々しさを感じさせていたのはいい演出効果だったんじゃないかと個人的には思っている。
冷戦下のドイツ・フランクフルト。
都市でありながら同時に月面上。
ナチスに親を殺されたユダヤ人の金持ちが、元ナチスの将校で今や女装の酒場歌手の娘を買う。
その元ナチスの将校(女装だけど)を演じるのが日本のこの現状を憂えるヨタロウさんだというのもなんの皮肉なのでしょうかね。
その背景に合った幻想的で寒々しい雰囲気のある舞台美術。
歌や踊りを挟みながら寓意的に展開される芝居は社会風刺に富み、時々グサリとささる台詞がある。
私にとって刺さった台詞の1つがローマBの言うこれ。
「真実は痛いもの、嘘だけが生き延びる力を貸してくれる」
うん、痛いんだ。真実ってやつは。
こういう内容の芝居だからなのか、客席ももう少しぎゅうっと空間的に客席どうしが詰まった密度のある劇場の方がよかったんじゃないだろうか。
舞台上で寒々しさが演出されるのはいいけれど、客席まで寒々しくなったらそりゃ悲しいわ。
主演の緒川たまきさんの佇まいはそれはもう美しく。
渚ようこさんの様々に変わる衣装と歌唱はカッコよく。
劇場全体に響く女装の酒場歌手、伊藤ヨタロウさんの歌声に震える。
それでも全体を通して客席の熱量が逃げてしまった感が否めない。
う~ん、もったいない。
劇場選びってのも重要だな。
ただ規模が大きくなればいいってもんでもない。
規模の大小ではなく芝居の内容に合った劇場ってのがあるんだろうと思ってしまった公演でした。
個人的にはホールに響くヨタロウさんの歌声が聴けたのが一番の収穫だったかもしれません。
音楽も好みで、特にカーテンコールに使われた曲が好きで、出演者が順々に出てきて最後に棺に入れられていたローマB役の緒川たまきさんが中から出てくる演出が好きでした。
最後の曲がまた聴きたくて帰りにサントラ買っちゃったもん。
サントラに入っている歌モノは実際に舞台上で歌っていた人ではなかったのが残念だったけれど、追加販売で渚ようこさんの歌う「レザーボーイ」の入ったCDも売っていたのでこちらも購入。
tiwtterでヨタロウさんの歌もあるという情報を見かけたので楽しみにしていたのだけれど、物販の所で書かれていた文言にはそのような記載はなく、帰って聴いてみてもやっぱり「レザーボーイ」しかはいっていなくて残念だった。
...と、そんなことをつぶやいたら渚ようこさんの関連アカウントから連絡をもらってやりとりをして、「そんなことで世界は滅びやしない」が間に合わなかったので...、と送ってもらうことになったのが大層嬉しく有難く。
いやね、こちとら音源発売を待つのとかメトロの頃から慣れっこですから(笑)、あぁやっぱり間に合わなかったんだ~くらいにしか思っていなかったので!!
まさかの本人歌唱ヴァージョンが手に入るなんて思いもしなかったですよ。
嬉しや嬉しや。
早く届かないかな~♪